4.育児支援制度があっても働き続けられない現実
— アディダスですか? その前に、ちょっといいですか?結婚は、どのタイミングでされていたんですか?
池照:マスターフーズ入って1年目ですね。
— 早かったんですね。結婚を機に退職とかは考えず、という感じですよね。
池照:あんまりそういうのは、考えなかったですね。
— 結婚したら寿退社が当たり前な雰囲気が、まだ残っていませんでしたか?「就職したらお寿司」と同じ感じで?
池照:結婚したからといって辞める意識はなかったですね。
主人も私も若くて、お金もなかったですし。
会社もそんなプレッシャーもない。
共働きの家庭で育っていることもあり、
働き続けるのは当たり前の姿だった気がします。
— その辺って、今、この歳になると忘れちゃうんですけど。当時はすごく周りを気にするというか、「みんなと同じに」っていう意識が働く年代だと思うんですよね。
池照:確かに忘れてる。そうかもしれないですね。
でも、マスターフーズっていう会社は、結婚したという理由で
辞めるひとはいなかったし、周りからも言われないですよね。
外国人の方も多くいらしたので、それは個人の選択というか。
そういう感じだったのかもしれないですね。
— 仕事と家庭を両立してキャリアを積んで、次に行ったのがアディダス。その頃30代に入っていましたか?
池照:ちょうどそんな頃ですね。
— これまで2社経験して、自分でも自信が付いてきた頃ですね?
池照:自信ね…。
アディダスは、日本法人を立ち上げて2年目だったんですよ。
まだ、若い会社で。
「これから制度も整備していきます」
みたいな感じです。
— 自動車産業からアパレルって全然違いますよね?
池照:全然、違いましたよ。
おもしろい、おもしろい。
特に当時のアディダスは2002年のW杯に向けて、
採用を増やし、会社もスピードアップして。
大きくしていこうという時でしたので。
— すごい違う世界に行きましたね。
池照:でも、もうアディダスに行くころには、
それまである程度「しくみ」がすでにある企業で
企業の成長状態に合わせて、
どう「しくみ」を変化させていくべきかって
勉強をさせていただいた気がしていました。
でも、企業の成長状態に合わせてアディダスでは、
これから日本法人を確立させていくという。
ほぼゼロから1を、1から2とか5とかにしていく感じが
ワクワクしました。
敢えて違う業種ということもあり、
挑戦の気持ちは確かにありました。
— で、アディダスは入ってみてどうでしたか?
池照:実は、アディダスは、わたし1年しかいなかったんですよ。
入ってすぐに、ちょっとしてから、子供こどもに恵まれたので。
— えっ、そうだったんですか?
池照:はい、そこで最初の仕事が、人事制度を整えていくということ。
将来に向けて育児支援制度を、整備するってことだったんです。
育児休暇なんかも含めて、骨格が見えてきたという所で
役員に説明に行って。
その2日後くらいに、自分の妊娠が解ったんです。
— すごいタイミングですね。
池照:実はそれまでフォード時代から、
ずーっと不妊治療に通っていたんですよ。
フォードの時は、上司を含めて男性ばっかりだったので、
周りには言わなかったんですけど。
子どもに恵まれたら、
「いったん仕事から離れて子供と向き合いたい」
とも思っていましたが、なかなか恵まれず。
もう無理かなと思った矢先で、びっくりしました。
で、「仕事はやめよう」って同時に思いました。
— それは何か思うところがあっての決断ですか?
池照:その当時って、今に比べると、
育児支援制度がきちんとある会社はまだそんなに多く無くて、
時短制度もない状態でした。
その中でわたしは、こどもが出来たら一旦自分の時間は
全部こどもに注ぎたいっていう思いがずっとあったんです。
だから、全然躊躇はなかったですね。
「あっ、辞めよう」って。
すぐに会社に「わたし子宝に恵まれたので会社を辞めます」って。
上司は「なんで?なんで?」って。
— まぁ、ビックリしますよね。
池照:「えっ〜、制度作ったじゃん」みたいな。
「昨日、プレゼンしたじゃん」みたいな。
そんな辞めないでよって感じですよね。
社長は当時、フランス人の方で、彼に言いに行ったら
「Why?」ですよね。
「フランスじゃ、2人産んでも3人産んでも続けてるよ〜、Why?」
「君、制度も作ったじゃないか?」って。
押し問答して、一週間後に「やっぱり辞めます」って決めて。
そこから臨月になるまで働いたので、
今でも、アディダスでお世話になった方にお会いしたりすると、
「ああ、あのお腹の大きかった人ね」と、いつも言われます(笑)。
— 結構、大きな決断ですよね。
池照:はい。でも、わたし個人としては、間違っていないんです。
ただ、わたしはその時に、
人事課長としてはものすごい失態をしているんです。
— 制度を立ち上げて利用してもらうひとを増やしていく立場だったという意味で?
池照:そう。
わたし自身もそう思っていた訳ですけど、
周りの同僚に妊娠を告げると、
「まぁ、普通辞めるよね、この忙しい環境じゃ」って。
風土が作れていないんですよ。
だって、「がんばんなよ」って言うことが気の毒になるくらい
皆さん働いている訳だし、忙しいんです。
「そうだよな、お母さんとして家に入った方がいいよな」って。
— ビジネスからみて、その制度を作っている立場のひとという位置付けからすると、「池照さん、辞めちゃうの?」って感じがあったかもしれないですね。
池照:まぁ、思いますよね。
— 知り過ぎていたから、両立無理って思ったんですね。でも、「頑張ればやれちゃう」っていうイメージもあるんですけど。
池照:どうなんだろう。
ただ、まだその頃、外資系の小さなところ、
例えば、フォード自動車も日本の中ではまだ人数が少ないですよね。
周りにいる女性は、「独身でバリバリと働いて実績を出している」
っていうのがマジョリティなんですよね。
アディダスも、わたしがシニアになるくらいですから。
子育て中の方がいたとしても派遣の方で。
いわゆる総合職で、周りにサンプルがいなかったですね。
だから、はっきり言うと、
「子育てしながら、会社の中で、ずっと働き続けられる」
っていうイメージが全然なかったです。
小さな外資系はみんなそうかも知れませんね。
サンプルがないのと、働き方がとにかく忙しいっていうので。
episode5 近日公開!!
つづき