10.華やかな経歴の裏の気持ち
— 経験を積む中で、今考えると「キャリアの危機だった体験」があれば紹介してください。
齊藤: 商社時代に、出向先のアパレル企業で働いていた時かな。
ひとりで行って、生産と物流って、自分しかできない状況で。
— そうなんですか?すごく充実して、華やかな印象ですけど。
齊藤: 自分が、しっかりしないとビジネスが止まる、
そういう状況に置かれていて。
誰かに泣きつけばいい、とかいう状況ではなかったので。
みんな、それぞれプロとして集まって、それぞれの仕事を全うする、
という状況下で仕事をしていた。
そんな中に、入社して3年目で入ったので。
それは、自分にとっても、かなりなプレッシャーで。
— それは、自ら手を挙げていったんですか?先輩の仕事の引き継ぎとかではなく。
齊藤: いや、ぼくが初めで。
あの頃、商社でブランドビジネスを立ち上げるのが、流行っていて。
それで、そういう話を持ってきて、やるっていうことだけが
決まっていた。本当に、それだけが決定していて。
あとは、全部、ひとりで一から作らないといけない状況で。
自立して自分でやらないと、誰も助けてくれないし。
— そうだったんですね。
齊藤: 本当に、それがあったから、
その後の色々な経験にも耐えられた気がする。
— では、最後に読者のみなさん、特に若い世代の方々にメッセージお願いします。
齊藤: 「未来の目標から逆算すること」かな。
10年単位とか、何歳まで働くか。
それを決めて、70歳、75歳まで、働くとして。
まず、その時点でどうしていたいか、どうなっていたいのか。
それを考えて、描いていくと、直近に何をしないといけないか、
考えやすくなるでしょう。
例えば、老後はハワイのリゾートで暮らしたい、と考えたとして、
それには、いくら稼がないといけないかとか、
どんな人脈を作らないといけないとか、
具体的に考えられるようになるから。
計算すると、分かってくるでしょう。
今の会社にこのまま勤めていていいのかとか、資産運用とか。
— 逆算して、具体的に考えていくんですね。
齊藤: 未来の目標から逆算する。
「今、何しないといけないか」って考えるのは難しいでしょ。
将来何したいですか、どうしたいですかと考えて、
それによって、今の生き方を考える。
人生の最終ゴールのような先まで考えられなくても
10年後どうなっていたいか、
あるいは3年後何をしていたいかでもいい。
ドラッカーの言葉で、
「何によって、覚えられたいか」ってあるけど、
誰かが、じぶんを紹介する時に、
「この人は◯◯です」って、
どう説明されたいか、どういう自分になりたいか。
「3年後に、こういう仕事をしていたい」って、
それを見つけて、専門家になることを心がけてきた。
キーワードを見つけて、覚えられるためには、
専門知識や実績、経験が必要で。
それには、やっぱり、3年は必要だと思うので。
パーソナルブランドを確立するためには、3年後を意識して
今から準備することが大事だから。
なので、3年後に「何によって覚えられたいか」
を意識して種まきをすることが大切。
— それは、会社に勤めている人もですよね?
齊藤: うん、それは社内でも必要。
例えば、3年後にニューヨーク駐在員になりたいとか。
そうだとしたら、社内の誰からも、「あいつしかいない」って
言われるために何をしたらいいかとか。
— 今の話に関係して、齊藤さんは将来どうなっていたいなって考えていますか?
齊藤: そうですねぇ。
ワークショップで、「子供たちとか若い人たちに向けて
話をしている老人になった自分の姿」ですね。
それって、今の仕事に関係しているものではなくて、
もっと働き方とか、生き方とか、自然との関わり方とか。
それを教えられるきっかけを作るために、
55歳でセミリタイヤして、2年間海外で過ごそうと計画している。
それまでの2年間は、日本を離れても大丈夫な、
仕事のやり方を考えたり、お金の準備をしたり。
2年間で8都市、同じ場所に住み続ける予定で、
香港とニューヨークは決めているんだけどね。
そこで、長期滞在ホテルかアパートを借りて、
生活者として住んで、体感してみたいと思ってる。
— すごい、具体的ですね。それは今の仕事と、共通点ありますか?
齊藤: 今も、年に1回、海外にいっていて。
その主な目的は、ファッションストアをみることだけど。
文化とか社会、働くこと、仕事の価値観とか、
そういうものを、感じ取ってきたいという気持ちが強くなった。
いわゆるキャリアについてですかね、そういうのを。
毎年、続けているリサーチ旅行というのは、
その都市探しも兼ねて、いろいろ見ている。
ロンドンや、今回行ったストックフォルムも、いいなとか。
先進国にいって、日本人の働き方とか、生き方とか、
商社にいた時は、もので日本を豊かにしたいと思ってたけど、
それを今度は、ハードではなく、考え方とか
ソフトの部分で、提供したいと考えている。
比較的、独立心を持った国の人とか、
台湾とか、参考になりそうだし、興味あるよね。
— そうだったんですね。
齊藤: 将来の絵を描くにあたって、
影響を受けたものが、実はもうひとつあって。
沢木耕太郎のショートショートで、
「彼らの流儀」っていうのがあって。
人生の中で、実現したい絵を持っている人たちの
「ひたむきな生き方」、「人生の裏側」を綴っている本で。
それを読んで、
「自分はどういう絵を書きたいかな」と思った。
それで浮かんできたのが、自分がもう白髪になっているんだけど、
若い人や子供の前で、ワークショップをしているような。
そんな老人のイメージが頭の中に、実はあるんだ。
だから、それを目指して生きているって感じ。
単純というか、思い込みがすごいんだけど。
— こういう形で、お話を伺わないと想像できない未来像でした。でも、着実に、準備が進んでいる気がします。今日は、貴重なお話を伺うことができました。本当にありがとうございました。