7.インディペンデント・コントラクターへの第一歩

7.インディペンデント・コントラクターへの第一歩

— 新聞記事といい、おじさんといい、すごい偶然のタイミングばかりですね。

齊藤: うん、そうですね。

          その日経MJの1面記事を見て、

          アメリカで出会ったおじさんを「ハッ」と思い出した。

          だから、すごくICの仕事ってイメージしやすかった。

          あとは、オーナー企業で働いた環境がすごく貴重で。

          今、オーナー企業とばかり仕事をしているんだけど、

          組織の中では、どう転んでも、創業者である

          「オーナーを超えること」ってできないんだよね。

          その会社の癖というか、そのカラーがあるし、

          会社は、オーナーのものだし。

          やっぱり会社を維持して大きくするには、清濁呑み込めて。

— きれいごとだけでは、やっていけないというイメージですか?

齊藤: そうですね。

          その辺も含めて、いろいろな人と付き合って、

          会社を経営していく必要性みたいな、

          実際に、とても近くで見ることができた。

          それで、そういうことを目にする度に、

          自分自身がたくさんの従業員を抱える経営者になるというより、

          そんなリーダーシップを持った経営トップの意を汲んで

          成長を手助けする仕事をする方が

          自分には向いているのではないかと思った。

          「最強のナンバー2になる」みたいなイメージで。

          しかもひとつの会社ではなく、多くの企業に貢献できれば……。

          「そんな独立のしかたもありかな」と。

— あのおじさんの「働き方」ですね。

齊藤: うん。それが、「ICとして独立する時」に考えたことかな。

          さっきのおじさんとの経験もあって、その形にしようかなと思って。

          それで、会社に告げたら、

          社長が「最初のクライアントになっていいか」ということで

          申し出てもらえて。

          他にも、挨拶に行った取引先で、興味持ってくれたところがあって。

          だから独立時の収入は、サラリーマン時代の6掛けだけど

          ビジネスは始めることができた。仕事が軌道に乗るまではと

          思って貯金もしていたけれど、大丈夫だった。

— 「どういう形でスタートするか」はとても重要ですね。

齊藤: 独立する時は、その前に勤めていた会社との

          関係性はとても大切。事業会社として独立する時も同じで、

          やっぱり、自分を必要としてもらえるかどうか。

          というか、意識してそういう仕事の仕方をすること。

          あとは、

          「その会社でしか通用しない仕事の仕方」はしないこと。

          他の会社でも通用する形を意識することが大切だよね。

— それって、一つの会社でしか働いたことがない人が聞くと、ちょっとピンとこないというか、どうすればいいか分からない部分だと思うのですが。

齊藤: そうかもしれない。

          でも、こういう意識を持つことはとても大切だと思う。

          どうしてそう思うようになったか考えてみると、

          ひとつには商社時代に、しかも若いうちに出向して、

          また戻って来る、という経験をしたことかな。

          自分の仕事を、後任に渡さなければいけないので、

          「仕事をマニュアル化する」という作業を、

          同期よりはたくさん経験した。

          これは大きかったと思う。

— 業務手順の整理とかですね。

齊藤: そうそう、仕事っていうのは、誰かに引き継ぐのかなって。

          異動があれば、その度に引き継ぎが発生する環境で。

          でも、ちゃんとできない人は、後任と仲悪くなったりして。

          でも、ぼくは感謝されるくらい、

          きちんと引き継ぎ書類を作ることを、心がけていたのね。

          そういう書類を何度も書いていたので、

          「誰でもできる仕事にしなければいけない」

          「自分じゃなくてもできる仕事にして行かなくてはいけない」

          っていう思いが強くあって。

— それって、今でこそ大切だと分かると思うのですが。自分しかできないこととして、「情報を囲い込むこと」で、社内での存在意義を高めようっていう考え方も結構ありましたよね。まだ、そういう空気がある時代だった気がしますが、それと全く逆の発想ですね。

齊藤: そうですね。

          なんか3年目で異動でしょう、5年目でまた戻ってきたりして。

          そうすることが必要だったし、

          そうすることで「次の新しい仕事に挑戦できる」というか、

          そっちの方が大きかったね。

          そうやって、引き継ぎをした相手に引き継ぎ書が、

          分かりやすいって言われると、すごく嬉しくなっちゃったりして。

          ITが、まだそこまで一般的ではない時だったので

          全部手書きで、集計表を使ったりして。

— ちょうどITが仕事でも欠かせなくなってきて、それまで情報通が社内で重宝されていたのが、だんだん変わっていく過渡期だったと思うのですが。その時点で、業務の効率化とか、一般化に気がついて、実践していたということなんですね。

齊藤: 単に飽きっぽくって。

          自分が、その仕事をできるようになっちゃうと、

          早く誰かに渡したくなっちゃうというか。

          その頃から、たぶん芽生えていたかなと思う。

          あとは、小売にいた時に身についたことなんだけど、

          何が正論かというと、オーナーとお客さんの考え。

          だから仕事が面倒臭いとか大変とかそういう現場の声も、

          「会社のトップだったら、こう判断するよね」

          「どうしたらお客様にとって最適になるだろうか?」

          という視点で話しが出来ると、

          みんな、文句の言いようがないというか、

          納得感があるというか、

          そういう視点を、持つことが出来るようになったことが

          大きかったね。


          *IC(インディペンデント・コントラクター)とは、

          サラリーマンでも、事業家でもなく、

          フリーエージェントである働き方。

          “期限付きで専門性の高い仕事”を請け負い、雇用契約ではなく

          業務単位の請負契約を“複数の企業”と結んで活動する

          “独立・自立した個人”のこと。

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